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株式会社せーのがバックアップするファッションブランド「HEADL_INER」の
ディレクターでありながら、多種多様な企業やブランドとのコラボレーションを
勢力的に行う吉田狼鐘音氏。その様々なコラボレーションの根底には故郷・沖縄が
育んだ”チャンプルー”の精神が存在していた。
並外れた行動力と時代を読むマーケティングで、新しいカルチャーを創造する
ファッション界の異端児に迫る。

F+:今日はサッカー日本代表戦(6/3日本対オマーン戦)で、試合途中にもかかわらずお越しいただいてありがとうございます。よろしくお願いします。

吉田狼鐘音 (以下:吉) 事務所でスタッフ達と観ていたんですが全然大丈夫ですよ。こちらこそお願いします。

F+:さて今日は雑談のような感じで色々と聞いていきたいのですが、まずはドレメに在学していた事をお聞きしたいと思います。ドレメ在学時は何科に在籍していましたか?

吉:ファッションビジネス科です。正直いうとあんまり学校には行っていなかったような...。

F+:そうなんですか?

吉:バイトしてました。出身が沖縄なんですが、親戚が公務員家系で県庁とか市役所とかで働いていたんですよ。なので地元の大学を卒業して公務員として就職する予定だったんですが、それを蹴ってなにか刺激が欲しいと思い上京しました。半勘当みたいな状態だったので学費や生活費も自分で稼いでいたので。

F+:半勘当という事は上京することをご両親には言わなかったんですか!?

吉:大学卒業が3月5日で、その月の14日には東京にいました。親から「あんた最近見ないね。就職の話なんだけど。」って連絡あったんですけど、「俺東京だよ。」って言ったらそこから勘当でしたね。そこから7年後に和解しました。

F+:えー!最近じゃないですか。それにしても思い立ってからが早いんですね。

吉:そうですね。でも僕には「背水の陣」という覚悟でした。同級生がみんな19歳の中自分だけ23歳で、学費も生活費も全部実費だったし。

F+:確かに親のお金で進学している学生とは覚悟が違いますよね。学校ではどなたに教わっていましたか?

吉:山下先生や鈴木先生でしたね。

F+:ドレメではどんな事を学んでいましたか?

吉:僕は入学前からプレスになる事が目標だったので、半年学校に通って「課題」と「資格」の勉強すればあとは大丈夫だとわかりましたね。○○検定○級とかあったじゃないですか。ミシンとかは全然わからなかったですね...。とにかく専門的な知識を付けることを重点的に勉強してましたね。

F+:吉田さんは「ファッションビジネス科」1期生でしたよね。(現ファッションサービス科)その代の卒業生は販売員やMDになった方もいるのですが、一方ではファッションデザイナーや、吉田さんのようにクリエイティブディレクターになる方もいますよね。その反対に「服飾造形科」や「デザイナー科」のような洋服を製作したりクリエイティブに特化した科を卒業した方々が販売員をしていたり、全く異業種の職についている方も大勢いるという、なにか「ねじれ現象」のような事が起こっていると思うのですがどう思われますか?

吉:おそらく僕たちがドレメに通っていた時代のファッションの世界ではファッションデザイナーがもてはやされていたと思うんですが、今のファッションの世界はデザイナーからクリエイティブディレクター、そこからさらにプロデューサーという職種が存在しているように、求められるものの幅が広くなっているんですよ。逆に言うと今はファッションデザイナーという職種は服のデザインしかできないという感じです。たまたまですがその当時のファッションビジネス科はファッションだけでなく音楽、映像、アートなど様々な関心を持つ生徒が多かったため、今求められる感性とマッチしたのではないかと思います。

F+:職種の幅も一昔前に比べると広がっていますよね。

吉:MDやVMD、プレスやVプレ(ビジュアルプレス)などもありますからね。

F+:では吉田さん的に今のディレクターというポジションと昔から志していたプレスというポジション、どちらがご自身には合っていると思いますか?

吉:Roen(株式会社ロエンが展開するファッションブランド)のプレスを約5年間していました。Roenは当初スタッフが4人しかいなく、始めた頃は大変でした。でもドクロのモチーフなどがフィーチャーされてだんだん会社の規模も大きくなっていってナンバー2というかデザイナー高原(Roenデザイナー)の右腕のような存在になって色々といい思いもさせてもらいました。でもどこへ行ってもナンバー2なんですよ。何をしていてもどこへ行ってもやっぱりデザイナーがトップなんです。嫉妬でしたね。そこから徐々に自分の思っている事、考えている事を表現したいと思うようになりました。これだけ人脈も築くことができて、ファッションブランドの打ち出し方もわかっているんで。 それが2年半前くらいかな。

F+:それでは次にコラボレーションについてお聞きしたいのですが、このインタビューをすると決まってから吉田さんのコラボレーションについてだったり、ヘッドライナーのショーやメディアでのインタビューなど拝見させて頂きました。

吉:すいませんねWikiなくて。そのうちできると思います。笑

F+:そうなんですよ。笑 Wikiに頼らず「吉田狼鐘音」と名のつくものは片っ端から調べました。調べるうちにやはり「コラボレーション」がキーワードだと私は感じました。「ヘッドライナー」のディレクターというのが世間では全面に出ていますが、ヘッドライナーというブランドは、様々なコラボレーションを通じて形成された「吉田狼鐘音」という人物の一部分に過ぎないのではないかと思いましたがどうですか?

吉:そう思って頂いているのは嬉しいですね。その通りで、ヘッドライナーというのはひとつの洋服での表現でしかないんですよ。ヘッドライナーのホームページとは別に自分のWEBサイトも作っています。ヘッドライナーのホームページを見ても今までコラボレーションしたホンダ、モリワキ、スバル、56レーシングの事は一切書いていません。自分のホームページには全てリンクを貼って、やってきた仕事が一目で解るようにしています。

F+:その他にもご出身の沖縄のかりゆしウェアやゴーヤバーガーやご当地戦隊ヒーローの「琉神マブヤー」、オリオンビールともコラボしていますよね。

吉:やっていますね。例えば「コム・デ・ギャルソン」というブランドは親の世代から今の若者まで幅広く愛されてますよね。なぜかというと、(コム・デ・)ギャルソンは「シュプリーム」や「ユニクロ」などその時代時代で色々なブランドとコラボをして、老舗ブランドにも関わらず新鮮さを今なお保っているんですよ。結局それってひとつの「カルチャー」を作っているんだと思うんですよ。僕はカルチャーを作りたいんです。

F+:今のお話を聞いていると、やはり吉田さんが積極的に行うコラボレーションというのは各分野のエッセンスをファッションなどと絡めて、また新たなカルチャーを創造するという事なんだと思いました。

吉:その通りです。僕はモータースポーツが好きなのでホンダさん(本田技研工業株式会社)のお客様問い合わせセンターに「コラボさせて欲しい」と手紙を送りました。それがきっかけとなり「Honda BY YOSHIDAROBERTO」ができたんです。

F+:お客様窓口にですか!?

吉:そうなんですよ。Roenの時にミッキー(ディズニーキャラクター)とのコラボも「トーキョーウォーカー」読んで、その当時はウォルトディズニー社とオリエンタルランド(ディズニーランドの運営会社)が違う会社なんて知らなかったので、オリエンタルランドの窓口に電話してましたからね。でもそれが一年後に実現するんですよ。一回会えば何とかなるという根拠のない自信はありました。いつも真正面からなんですよ。

F+:その行動力はなかなか真似できるものではないですよね。

吉:今でも何通も手紙送ってますからね。あまり言いたくないですけど。(笑) でもこういう地道なアプローチの結果面白い事ができています。そして雑誌などメディアに取り上げてもらってみなさんに認知されているんです。やっぱりどんなにカッコいい事やどんなにカワイイ事をやっていても見てもらわないと始まらないんですよ。そういう所からカルチャーは生まれてくると思っています。藤原(ヒロシ)さんの世代にはあっても僕たちの世代にはまだカルチャーが確立していないんですよ。

F+:そのカルチャーの生まれる土壌についてですが、一昔前はインターネットが今程普及していないので、感度が高い人が実際面白いものを海外から持ってくるいわば「遣唐使」のような役割が必要だったんですが、今はこれほどインターネットが普及している中でわざわざ現地へ赴かずとも情報は得られる環境にはなっていますよね。

吉:簡単に情報が入るから浅いんですよ。それではカルチャーにはならない。しかもカッコいい人ってカルチャーを作っている人たちじゃないですか?その年代の人たちはまだ探していますよ面白い事を。とりあえずその人たちに追いつきたいですね。

F+:ではその様々な企業やブランドとコラボレーションを行う際にどういう基準でコラボする相手を選ぶのですか?自分からお願いするのか、それともオファーを受けるのか。

吉:オファーは基本全てお断りします。

F+:え!断るんですか!?

吉:女の子も自分から好きにならないとつき合いたくないんですよ。笑 仕事も一緒で向こうから好きですよって来る人は疑う。なにが好きなんだろう?って考えてしまいますね。

F+:理由としては少し話が戻りますが、オファーの場合は先ほど仰ったように自分が先頭に立てなくなる可能性もあるという事ですか?

吉:それもあります。もちろんキャパ的な事も関係してくるんですが、向こうから声をかけてくる場合はどうしてもビジネスが強すぎて長続きしないんです。例えば商品が売れなかった場合に「あの人を起用しなければ良かったのに。」とか言われてしまう。だったら自分から行った方が相手も力になってやろうっていう気持ちになるんですよ。企業を相手にたった一人の人間が大金を動かすとなると、もう最後は気持ちしかない。なので「ホンダがあのひと使っているからウチも使ってみよう。」という安易な発想であやかろうとする人たちは信用できません。例えば短期間で大金を稼ぐ仕事だったとしてもそれは自分の仕事の中には入れたくないですね。「この仕事の方が面白くないけど儲かるからやろう。」という発想はまだないですね。それはまだ僕が30代だからかもしれない。それが今40代だったら考えが逆転するでしょうね。

F+:それはなぜですか?

吉:上の世代の人たちは30代の時に面白い事をやって、それをやめたから儲かっているんですよ。だから僕たちの世代はまだまだ面白い事をやれるんです。

F+:なるほど。でも吉田さんの観点やセンスというのは今の日本のファッションデザイナーやクリエイティブディレクターは殆ど身に付けていないと思いますね。とても新しく感じました。

吉:そう思わなきゃ面白い事はできないと思います。地道な努力と同時に華やかな場所へ自分自身をセルフプロデュースしていかないと。

F+:次に、クリエイティブに関する事をお聞きしたいのですが、影響を受けたファッションデザイナーはいますか?

吉:宮下貴裕と高橋盾ですね。特に「アンダーカバー」はメンズなのにモチーフが可愛いクマだったり、キノコだったり、そんなの今までなかったですからね。

F+:それはドレメに入学する前から好きだったんですか?

吉:そうです。沖縄にいる頃からですね。

F+:故郷沖縄から受けた影響というものはありますか?

吉:もちろんあります。沖縄は日本という国でありながらルーツが琉球王国という中国の文化が入っていて、戦争が終わってからはアメリカの文化が入ってきて、これだけで3つのカルチャーが混ざり合っているんです。沖縄はすべてを受け入れて一つにするのが得意だと思うんですよ。だから料理でもそうなんですが、カテゴリ分けされていません。全てごちゃ混ぜ。

F+:ミックスされているという事ですよね。

吉:まさに”チャンプルー”ですね。

F+:沖縄特有の全てを許容してミックスするという精神や、ある種の「雑食性」は吉田さんがやってきた数々のコラボレーションと繋がっているように思うのですが。

吉:そうだと思いますよ。例えば「琉神マブヤー」は東京コレクションでも登場していますからね。普通なら神聖なファッションショーに絶対出しちゃ駄目じゃないですか。でも僕の感覚では駄目じゃないんですよ。むしろインパクトを残せていますしね。

F+:あとはクリエイティブディレクターという立場でアイデアを形にする際に情報収集は欠かせないと思いますが、リサーチはどのように行っていますか?

吉:めちゃくちゃしてます。本もすごい読みますよ。

F+:それはクリエイティブに関係するものなんですか?

吉:自分はデザイナーではないので、今何が求められているのか?何が売れているのか?という洋服と関係のない所でリサーチしていますね。

F+:では最終的なアウトプットがファッションですが、そのリサーチした内容や、伝えたいメッセージはどのように洋服として落とし込んでいるのですか?

吉:ここまでずっと話してきて申し訳ないんですが、そこは全く関係ないんですよ。

F+:ということは、別のプロセスで行っているんですか?

吉:ショーや展示会の半年前とかにニュースを見るんですよ。そこで悲観的に感じた事を元に表現していて、例えばテレビから有名人の奥さんがお亡くなりになりました。散々遊び回っていてもずっと奥さんがそばにいてくれたけど今は一人になってしまった。というニュースを見た時にこれは愛なんだと。そこには月と太陽のようにどちらが欠けても生きられないというバランスを考えた時に、初めてアシンメトリーにしてみようと思うんです。そういう感覚なんですよ。

F+:ニュースからの情報で、特に悲観的なものからインスピレーションを受けているという事なんですね。

吉:だからショーや展示会でコンセプトを聞かれるのが苦手です。感覚なんですよ。コンセプトやテーマで決めるとそればっかりになってしまうじゃないですか。

F+:確かに先ほど仰っていたチャンプルーの精神というところから考えるとキッチリとコンセプト通りにはならないですよね。

吉:そうなんです。リサーチした結果全く関係のない事がテーマになっていたりします。でもたとえこれが今流行っているとわかっても、それで行こうという発想にはならないですね。

F+:疑問や好奇心からスタートするという事なんですか?

吉:そうだと思います。好奇心が強いので気になった事は徹底的に調べますし、プライベートでもいつでも面白い事は何か考えています。

F+:最後になりますが、今回のインタビューを通して終止一貫して吉田さんが伝えていたのは、自分たちの世代のカルチャーを創造していきたい。そして創造するにはどうしたらいいかという話に尽きると思いますが、吉田さんを含む30代より下の世代が経験した社会は「ロストジェネレーション」だと言われています。バブル景気の終焉、就職氷河期など閉塞感が漂っていて、ファッションの世界でもファストファッションが台頭して作り手のクリエーションが失われてきた時代なんだと思い知らされる事ばかりですが、上の世代に盛り上がったストリートカルチャーやクラブカルチャー等とは全く違う手法で何かできるんじゃないかと私自身も考えているのですがどう思いますか?

吉:いや実はもうやっているんですよ!。自分たちの世代の人たちも面白い事をやってはいるんですけど演出ができないんです。あとは見せ方だけ。これだけ情報が溢れている時代なんだからもっと面白い事を発信できるんです。そしてそれを感じてくれる人もいるはずです。

F+:最後は頼もしい言葉をいただきました。今日はありがとうございました!

吉:ありがとうございました。

1:何をきっかけに今の仕事を志しましたか?

A:東京の女子にモテたかったから。

と書きましたが、地元でやりたい事がなかったんです。東京に来て何か刺激が欲しいと思ったのがきっかけでしたね。

2:今の仕事の辛い事、楽しい事。

A:寝れない事。好きな事を仕事にしている事。

あれをやりたい、これをやりたいと言うのは小学生も大学生も同じように言う。でも自分は今本当にやりたいと思っていることをやれているのが幸せです。辛い事は24時間アイデアが出てくるので、それを考えていると寝れない事ですね。それを含めて幸せと言えるかもしれません。

3:今の仕事の他に関心のある事、またはアイデアの源。

A:漫画。

特に「ジョジョの奇妙な冒険」が好き。漫画は不変。一生読み続けると思います。漫画に教えてもらった事がたくさんあります。

4:仕事に対しての信念、決まり事。

A:やりたい事しかやらない。

簡単に言うと僕は所(ジョージ)さんになりたいんです。やりたい事をやる為には地道な事を積み重ねていかないとできません。/p>

5:ドレメに通っていて良かった事、役立った事。

A:仲間に出会えた事。

個性的な仲間と知り合えた事、その仲間とファッションイベントをやっていた事が良い思い出です。当時の友達とは今も繋がっています。

最後にファッションを学んでいる学生や、今から学ぼうとしている人々に向けて一言。

A:「大志を抱け。学校に入ったら誰かがやってくれるとか、何かをしてくれるとか思わないで欲しい。学生のうちに将来自分に何が必要か考える。24時間という時間はみんな平等なんだから。あと勇気をもつこと。何か行動しないと何も始まらない。」

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  • 吉田 狼鐘音
  • ROBERTO YOSHIDA
  • 1978年沖縄県生まれ
    ブランド「Roen」立ち上げメンバーとして参画し、販売員→営業→プレスを経験
    2010年2月に株式会社ロエンを退社
    2010年3月に株式会社せーの入社し、DIRECTORとして就任
    2010年7月にコレクションブランド「HEADL_INER」を発表
    http://yoshidaroberto.com
    「HEAD LI_NER」の他にインタビューにも出てくる様々な企業や地元沖縄に関するコラボレーションの全貌。
    そして吉田氏の素顔や、NEWSをブログで絶賛更新中です。

FASHION PLUSとは、ドレメが培ってきた伝統に新しい価値観を加え、そこで生まれたクリエイティブのヒントを共有するプロジェクト。

現在ファッションの世界では職種の細分化が進んでいますが、その反面求められている資質は年々多様になっています。しかしファッション教育の現場では、従来の方法で全てに対応する事は難しいというのが現状です。
そのような中、今まで築き上げてきた伝統に新しい価値観を加えて、ファッションやものづくりを見つめ直す時期にきているかもしれません。 FASHION PLUSではWEBメディアを使って、ファッションだけではなく、卒業生や他分野のクリエーターのインタビューなどを掲載。「ものづくりに関わること」の楽しさを伝え、そしてファッションに関わる様々な情報を在校生やこれからファッションを学びたいという人々に対して発信していく事が目的です。

杉野学園ドレスメーカー学院のオフィシャルサイトはこちら:http://www.dressmaker-gakuin.ac.jp/