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創業170年を超える老舗繊維商社「豊島株式会社」の 業務委託(フリーランス)デザイナーとして、一年を通して膨大なデザインをこなし、 さらには市場、トレンド調査や生産管理、展示会やイメージディレクションなど、 その業務は驚く程に幅広く、彼らの手から産み出されるカジュアルウェアは若者の心を掴んで離さない。 「3ヶ月後に何が売れるか?」の問いに真正面から向き合うアパレル業界のリアルに迫る。

F+:お越し頂きありがとうございます。では早速色々と伺っていきますのでよろしくお願いします!

3人:よろしくお願いします。

F+:今回はせっかくアパレル業界の方々に集まっていただきましたので、特にこれからアパレル企業へ就職を考えている学生に向けて、 具体的な内容を伺っていきたいと思います。まずは今業務を委託されている会社(豊島株式会社)で働き始めた経緯を教えていただきますか?米津さんからお願いします。

米津祐輔(以下 米):はい。 僕の場合まず今の会社でドレメの先輩が働いていたんですよ。卒業してからはスタイリストのアシスタント、それからアパレルの販売をやっていたんですが、10代の頃から何となくですけど洋服を作る仕事に携わりたいと思っていたので、その先輩に相談したところ偶然今の会社でメンズの企画を募集していたんです。企画は未経験だったんですけど、本当にやりたいという意思を伝えたら、一緒にやりましょうという事になったのがきっかけですね。

F+:なるほど。では小野さんお願いします。

小野まどか(以下 小):私は色々と渡り歩いてますよ。私は卒業してから某ブランドで働いていて、そこで働いていた時に仲良くなった大好きな先輩がいたんです。

F+:また先輩ですね!

小:そうなんです。笑 その後先輩は会社をやめて、私はしばらく働いていたんですけど、私のやっていたブランドがその会社から撤退してしまったんです。 そして転職して別の会社でその頃チーフとして働いていたんですが、先輩が今の会社で働いていて、また一緒にやらないか?って声を掛けてくれたんです。 半年くらいずっと悩んでたんですけど、先輩を追って今の会社に入ったんですよね。今では隣の机で一緒に働いています。

F+:そうなんですか!やっぱり道しるべみたいな存在は重要なんですね。では佐藤さんお願いします!

佐藤千尋(以下 佐)私は最初ドレメの助手(担任を持つ先生の補助的な役割)を2年くらいやっていて、それから販売をして、今の会社には友達の紹介で入りましたね

F+:ところでみなさんは会社員ではなくフリーランスのデザイナーとして業務を委託されているんですよね?このようなワークスタイルは業界では特殊ななんですか?

米:最近は増えてきましたね。うちの会社は繊維専門商社でとても大きな会社なんです。昔は生地を作って卸していたんですけど、最近ではそれだけではなく色々なアパレル企業のOEM生産(“Original Equipment Manufacturing”の略で、他社ブランドの企画、生産を行う事)をやっています。それで僕たちは業務委託として契約して、営業と一緒に受け持っているブランドのデザインをやっている感じですね。

小:正社員は営業だけで、簡単にいうと会社の中にまた沢山の会社があって、私たちはその中で”営業に雇われている”という感じなんです。 私はずーっと会社員でやってきたので最初はこの仕組みにビックリしましたね。

米:だから一つの会社のように営業がデザイナーを面接をして、このデザイナーなら仕事ができるとか、自分の持っているブランドに合うとかを見られているんです。契約上フリーランスで気楽な所もあるんですが、売上を出さないと真っ先に切られてしまうので、その辺りはシビアですね。

F+:スゴい世界ですね...。

小:逆に言うと結果を出せば目に見えて担当するブランドが増えたりするので、これはこれでとてもやりがいはありますよ。

F+:やはり限られた期間で結果を出すのは難しいですよね。展示会は年に何回程行っているんですか?

小:会社の展示会が年に2回。それとは別に個々のブランドの「内見会」というものが年2回あります。

F+:「内見会」とはなんですか?

米:豊島の持つ全ての取引を呼んで会社全体が足並みを揃えてそのシーズンの洋服を発表する展示会が年に2回あります。それとは別に各営業が担当しているブランドへ向けて、そのブランドの為だけに提案する展示会を「内見会」と言います。なので売れっ子のデザイナーだと一人でいくつものブランドを担当しているので、サンプルや実際製品になったものを合わせると年間数百型を企画する人も中にはいますね。

F+:年間数百型!!?想像を超えた数字ですね。

F+:では次はさらに具体的な内容を伺っていきたいと思います。今ドレメで勉強している学生の中にも将来アパレル企業でデザイナーになりたいと考えている人も少なくないと思いますが、具体的にみなさんはどのような業務を行っているのか教えてください。

米:今のアパレル企業、ブランドはデザイナーが在籍していない事が多く、変わりにバイヤーがいます。僕達は営業と一緒に取引先のブランドへ赴いて、 そのバイヤーに商品を提案するんです。そしてそのバイヤーが選んだ商品をこちらで生産します。そのあたりは3人とも同じだと思います。

小: まさにOEMですよね。

米:営業と一緒にバイヤーと話しをして、今期はこういうものが欲しいとか、おおよその値段、納期などの打合せをして、僕達は実際のデザインや仕様書などを担当します。

F+:ではオーダー(注文)は先ほどの展示会、内見会で決まるんですか?

米:内見会もそうなんですが、殆どは取引先に毎週のように通い、そこの商談で決まりますね。1ヶ月〜2ヶ月後に店頭に並ぶ商品を常に作っている感じですね。

F+:取引先のブランドで注文を受けるのは1社だけなんですか?それとも他にも同じような会社が存在するんですか?

米:もちろんいます。

小:商社などライバルはたくさんいます。取引先のブランドに多いのが「検討会」というものを週1回設けて、あるお題に対して全部のメーカーがていあんするんですよ。

F+:コンペですね!

米:そうなんです。もちろんコンペに勝ち抜く商品を作らなければならないし、勝たないとオーダーも来ません。

F+:弱肉強食の世界ですね...。社内では営業の信頼も得なければならないし、社外ではクライアントの信頼も勝ち取らなければならない。

佐:それだけじゃなく、やはりバイヤーも人間なので仲良くなったり信頼してもらうというのも大事です。バイヤーからどんな商品を望んでいるのか引き出すとか、逆に営業とコミュニケーションをとって、要望されたものがコストに見合う商品なのか常にアンテナを貼っておかないといけないですね。

F+:デザイナーは良いデザインをする事も大事だけど、コミュニケーション能力も必要ということですね。

佐:必要だと思います。

F+:みなさんは企画する際トレンドのリサーチはどのように行っていますか?

米:基本的に企画する商品はファストファッション(最新の流行を取り入れながら低価格、短いサイクルで大量に生産、販売しているブランドや業態)なので、クライアントからは「このテイストの商品が売れるから一日でも早く店頭に出したい」ということもあります。そんな時良く言われる事が「3ヶ月、6ヶ月先に売れる商品を考える」という事です。例えばコレクションブランド(殆どの場合年2回、世界中で行われるファッションウィークにファッションショーや展示会へ出展するブランドの事。価格もファストファッションに比べて高額なものが多く、ブランド名もデザイナーの名前を使っている事が多い)は年2回のコレクションの為に半年かけて次の事を考える事ができますが、僕達はそういうわけにいきません。

F+:1年後、2年後に流行するものなどは今の流行と照らし合わせれば予想がつきそうですが、3ヶ月先などなかなか想像できない思うのですが。

米:ヨーロッパなど海外にリサーチしに行く事もあります。どちらかというと1年後など長いスパンで考えた時です。短いスパンでは僕の実体験なんですけど、パンツで「クロップドパンツ」(主にパンツの裾がくるぶしより上で膝より下のパンツ七分丈など)ってあるじゃないですか。それを僕がサンプルとして買って履いていたら、営業が食いついてきたんですよ。「見た事無い丈だね」って。そしてそれをクライアントのブランドに提案して店頭に並んだ途端”バカ売れ”でしたね。

F+:スゴい!やはり注目され始めたものを敏感にキャッチする事が大事なんですね。

米:あとクライアントの店舗はもちろん地方にも沢山あります。やはり地方の若者達は原宿にいるような人達より若干タイムラグがあります。流行ると思ったものが全くフックしない場合もあるので両方の感覚が必要なのかなと思いますけど。レディースはそれが顕著だと思いますね...。

小:私の場合はキレイめなものからカジュアルなものまで幅広くやっているので、それぞれの事を同時に考えているんですけど、でもやっぱり全ての円が交わる「マスゾーン」というものがあるはずなので、そこをコレクションや雑誌などからリサーチするし、クライアントと話し合って詰めていきますね。

佐:私はセレクトショップかな。やっぱり高級なものを見るようにしますね。バイヤーも目が肥えているので。

米:あと、ある程度の編集能力も大事ですね。

小:わかる!

米:海外や日本のコレクションを見て今後流行る事は何となくわかるんですが、実際買う消費者との”ギャップ”がある事を忘れちゃいけなくて。そのままコレクションを鵜呑みにしてデザインするんじゃなく、実際店頭に並んでいる商品と比べて噛み砕いたり、落とし込んだりする編集能力が無いと僕達は駄目なんですよね。

F+:ではそのような能力はどうしたら養われるんですか?

小:やっぱり引き出しは多い方がいいですね。例えば一つのネタでもクライアントのショップを見て、このブランドならこう着るなぁとか。私たちはデザイナーであり”アレンジャー”なんですよ。

米:以前営業と話しをしていたんですが、ある種スーパーデザイナーのようなこだわりが強いひとは商社にはいらなくて、何でも作れるヤツの方が強いんですよね。

小:全てが自分の作りたいものを作れる環境じゃないから、どれだけ柔軟に考えられるかが重要だと思いますよ。

F+:とはいえその中でも差別化をしていかなければなりませんよね?

小:そうです。誰が作っても一緒になってしまいますからね。

F+:難しい...。

米:やはり”何となく”で作ったものは伝わりませんからね。どれだけクライアントを説得するかは自分の言葉や思いがなければ伝わらないです。

F+:それではみなさんは実際企画を行う際はどのようなプロセスで行っていますか?

米:デザイン画を描いて、仕様書を書く場合と、サンプルや写真を使って簡単な指示を出す場合があるんですけど、僕は半々ですね。例えば複雑なポケットの仕様がある場合は絵型を描いて、仕様書を仕上げて、パターンを起して指示を出すんですけど、簡単な仕様のものは電話一本で工場に伝えれば作れる環境があるので。アパレル企業をあまり理解していないと、パターンも起さず簡単に作るだけって思う人もいるかもしれませんが、最終的にはどれだけ利益を出せるかが重要なんですよ。例えばパターンにこだわって時間をかけて作っても、クライアントのコンペに間に合わなかったら全く意味が無いので。 さっきの話しに戻りますが、柔軟に対応していかなければ難しいと思います。

F+:布帛(反物、生地)は可能かもしれませんが、ニット(編み)の場合はそうもいきませんよね?

小:私は100%仕様書を書きますね。ニットの場合パターンが無いし、クライアントへサイズや組織を計測して提出しなければならないのですべて仕様書を仕上げています。

佐:私も布帛ですけど100%書きますよ。担当営業の方針もあるよね?

米:それはあるかもね。

F+:一年で何型くらいデザインしますか?

3人:わ、わからない...。

F+:わからないくらいやっているんですか!?

米:おそらく布帛で300型以上はやっていますね。ニットはもっとやるよね?

小:1ヶ月でファイル2冊分くらいだから...700型以上は確実にしてますね。

米:あっ。小野ちゃんあの話してよ。

小:あー内見会の為に出張に行ってデザインを出すんですけど、朝9時から深夜2時位までずーっと書き続けるんですよ。出張が3日間で150型くらい書いた事ありますね。帰りは仕様書がすごい量になってましたね。笑

F+:3日間で150型!?

米:仕様書やデザインもそうなんですけど、やっぱり学校では自分でデザインして、自分でパターンを引いて、自分で作っていますけど、社会に出て企業のデザイナーとして働く時はパターンや縫製は殆ど他の人に任せる事になると思うんですよ。その時にいかに理解してもらえるか”伝える力”も重要だと思いますね。将来もし企業のデザイナーを目指しているの人がいれば、今の内から意識していた方が良いと思います。

F+:それではみなさんにとって仕事をしていく上で達成感や喜びを感じるポイントはなんですか?

佐:単純に自分がデザインした服を、街で着ている人を見かけたら嬉しい!

小:あー同じだった。

米:僕も一緒ですね。笑

F+:みなさん同じですね!

米:僕達の商品は売れ筋のものだと何万枚と作っているいるんです。もちろん人口に対して大きな割合ではないんですが、コレクションブランドと比べると圧倒的に量が多いので日本全国、海外にも着ている人がいて、沢山の人に行き渡っている事を実感できるのが嬉しいですね。

F+:就職を控えた学生に向けて、みなさんの経験から何かアドバイスはありますか?

小:私は転職という事で言うと、今までやってきた仕事に対して満足していない自分がいるという事と、新しい事に挑戦して今後自分がどうなっていきたいかをストレートに伝えましたね。あと笑顔?

米:笑顔と元気がないと駄目でしょう!

3人:そうだねー。

米:やっぱりガッチガチに緊張してても、元気があって楽しそうに面接受けてる人じゃないと。面接で自分の100%を出すのは恐らく無理だと思うけど、そこでしか判断してもらえないんですよね。 僕も第一印象が悪かったらこの会社で働いてないと思います。

小:あれこれ自分で出来ると思っても、学生の時に学んだ事と会社に入ってからの仕事はやっぱり違いますからね。

米:でも多少のハッタリは必要だと思いますよ。そのかわり入ってから1年間は相当苦労しましたけど。笑 結局は入ってから自分の努力次第ですからね。

F+:やっぱり熱意ですかね。

米:結局は出来ない事はあっても、この人と一緒に仕事したいと思わせる事ですね。 

F+:では企業デザイナーにとって求められるものは何ですか?

米:柔軟性ですね。こうじゃなきゃいけないという考えは邪魔になると思いますね。突然トラブルが起きた時、その場の対応に掛かってくるので。すぐ近くにある工場ならいいんですけど、海を越えた所の工場や生地を使っていると台風だったり、工場が閉鎖したりだとかはザラにありますから。

小:あと吸収力かな。吸収した事を次に生かす事が出来る人。

3人:本当にそうだね。

F+:今回は企業デザイナーを目指す人にとって、本当に有意義なお話が聞けたと思います。ありがとうございました!

3人:ありがとうございましたー!

  • 佐藤 千尋
  • Chihiro Sato
  • 1981年生まれ
    2003年ドレスメーカー学院 デザイナー科卒業

1:何をきっかけに今の仕事を志しましたか?

A:友人の誘い

2:今の仕事の辛い事、楽しい事。

A:辛い事:何かにいつも追われている様な感覚で毎日を過ごす事。楽しい事: ファッションが身近にある事。

3:今の仕事の他に関心のある事、またはアイデアの源。

A:料理、映画、外国

4:仕事に対しての信念、決まり事。

A:仕事の人と仕事外で関わらない。

5:ドレメに通っていて良かった事、役立った事。

A:いろいろな仲間に出会えた事。

最後にファッションを学んでいる学生や、今から学ぼうとしている人々に向けて一言。

A:若い今を楽しんでください。

  • 小野 まどか
  • Madoka Ono
  • 1980年生まれ
    2003年ドレスメーカー学院 デザイナー科卒業

1:何をきっかけに今の仕事を志しましたか?

A:高校時代に読んだ「ご近所物語」に絶大な影響を受けて。

2:今の仕事の辛い事、楽しい事。

A:辛い事:1日の終わりが読めない事。楽しい事: 自分の提案を見て「かわいい」の声を頂いた瞬間。

3:今の仕事の他に関心のある事、またはアイデアの源。

A:音楽、世の中の流れ、友人との時間、会話、新しい人との出会い、常に刺激を!!

4:仕事に対しての信念、決まり事。

A:納期絶対!!返事!あいさつ! やる前に「できない」はNG!!

5:ドレメに通っていて良かった事、役立った事。

A:服に対しての基礎知識、人とのつながり。

最後にファッションを学んでいる学生や、今から学ぼうとしている人々に向けて一言。

A:服を作るのが好き。着るのが好き。洋服が大好き。という人には、本当に楽しくて素敵な業界だと思います。常に周りにも目を向けて、新しい事、面白い事を見つけていると良いと思います。辛い事も楽しい事も何でもポジティブに受けとめてがんばってください!!

  • 米津 祐輔
  • Yusuke Yonetsu
  • 1982年生まれ
    2003年ドレスメーカー学院 ファッションビジネス科スタイリストコース卒業

1:何をきっかけに今の仕事を志しましたか?

A:10代でファッションに興味を持ってから、一度諦めましたが、デザイナーの先輩のSNSを見て再燃しました。

2:今の仕事の辛い事、楽しい事。

A:辛い事:特にありませんが、仕事を覚えるまでは毎日怒られてへこんでいました。楽しい事: 自分の作った商品が、ヒット商品になり街で着ている子を見たとき。

3:今の仕事の他に関心のある事、またはアイデアの源。

A:関心は日本が誇るサブカル全般、特にアイドル アイデアは街行く人々

4:仕事に対しての信念、決まり事。

A:「休日は休む」

5:ドレメに通っていて良かった事、役立った事。

A:多くの友人に出会い、将来の仕事に繋がった事。

最後にファッションを学んでいる学生や、今から学ぼうとしている人々に向けて一言。

A:くよくよしたって始まる。 走れ!!

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FASHION PLUSとは、ドレメが培ってきた伝統に新しい価値観を加え、そこで生まれたクリエイティブのヒントを共有するプロジェクト。

現在ファッションの世界では職種の細分化が進んでいますが、その反面求められている資質は年々多様になっています。しかしファッション教育の現場では、従来の方法で全てに対応する事は難しいというのが現状です。
そのような中、今まで築き上げてきた伝統に新しい価値観を加えて、ファッションやものづくりを見つめ直す時期にきているかもしれません。 FASHION PLUSではWEBメディアを使って、ファッションだけではなく、卒業生や他分野のクリエーターのインタビューなどを掲載。「ものづくりに関わること」の楽しさを伝え、そしてファッションに関わる様々な情報を在校生やこれからファッションを学びたいという人々に対して発信していく事が目的です。

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